sellerapple’s diary

本のアプリstandに投稿した記事の過去ログです。

「アンダーグラウンド」村上春樹著 講談社

アンダーグラウンド村上春樹著 講談社

 

地下鉄サリン事件から25年、先日のニュースで事件により脳に重い損傷を受けその後遺症と闘ってきた女性が亡くなったこと知る。この女性とその兄の事は「アンダーグラウンド村上春樹講談社、読んでいたので無力感というか人生の不条理について改めて考える機会となった。本書は事件の被害者達のインタビュー集である。不条理な暴力によって損なわれた事件前の日常生活を丹念に聞き出すことによりその尊厳を回復する一助になっているのではないだろうか。被害者達の人となりを限りなく優しく描写しているのも印象深い。

 

只、本文中のインタビューにあるように

「戦争が終わって何十年かのあいだに経済が急成長して危機感を欠いたまま物質ばかりが大きな意味を持つようになって、人を傷つけてはいけないだとかそういう気持ちがだんだん薄らいできた。そういうことは前からいろんなところでいわれてきたわけだけれど、それが実感として迫ってくるようになったんですね。」p.150

四半世紀が過ぎたネット社会の今日その危惧はより一層加速し他人に痛みを想像できないまま親指ひとつで人を傷つけていく。

 

最後に先日亡くなられた女性の兄が報道機関に寄せたコメントを紹介して

女性と事件で亡くなられた方のご冥福をお祈りしたい、

「今年3月10日、病院に案内していただいた時には、亡くなっていますと言われました。

私は耳元でこんなことを言いました。

『幸ちゃん、25年間よく頑張ったね。お兄ちゃん、自分が頑張って下さいとまわりの人から言われてつらかった思い出があるから幸ちゃんには言わなかった。でも幸ちゃんはリハビリ、さまざまな困難に打ち勝って笑顔もみせてくれたよね。だから幸ちゃんにはリラックスしてオウムなんか忘れよう、楽しくいこうよ、って話したよね。でもお兄ちゃん、今は言うよ。25年間本当に、本当に頑張ったよね。お疲れ様。幸子、これからはなにも頑張らなくていいんだよ。ゆっくり休もう』幸子、私たち家族に携わってくださった皆様ありがとうございます。本当に感謝いたします。」2020年3月20日朝日新聞朝刊

 2020.03.21